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仙台高等裁判所 昭和53年(ラ)17号 決定 1978年5月15日

抗告人 長谷川秀吉 外一名

相手方 長谷川誠

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人らは「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その理由として別紙のとおり主張した。

抗告人らの主張は、要するに福島家庭裁判所会津若松支部昭和五一年(家イ)第一〇一号、同第一〇二号子の監護者指定調停事件の調停調書のうち、抗告人らが長谷川誠一(昭和四五年九月二五日生)、長谷川秀明(昭和四八年九月四日生)の両児を相手方に引渡すことを定めた条項は無効または取り消されるべきものであること、及び相手方に引渡されることを拒む両児に対し、その意思に反して、右条項に基づき強制履行をすることは許されないということにある。

よつて案ずるに、債務名義たる調停調書中の調停条項の効力の無効又は消滅の主張は、民事訴訟法第五四五条所定の請求異議の訴によるべきであつて、当該調停調書の執行力ある正本に基づく強制執行に対する不服申立の理由として請求異議の事由を主張することは許されないものというべきである。本件において、原決定は、本件調停調書の執行力ある正本に基づく強制執行の方法として、民事訴訟法第七三四条所定の間接強制を許容したものであるから、本件抗告理由中本件調停調書の効力を争う部分は、失当として排斥を免れない。

次に、本件記録によれば、前記長谷川誠一及び長谷川秀明の両名は、いずれもいまだ自己の住居を定める意思能力を備えた年齢に達しているものとは認められないから、原決定が右両名の幼児の意思に反することを前提とする抗告人らの主張もまた理由がない。

また、本件記録を精査しても、原決定にはこれを取り消すべき違法の点を見いだすことができない。なお、附言すると、原決定は民事訴訟法七三四条前段により、昭和五三年四月一日以降抗告人らが本件各幼児を相手方に引渡すまでの間の賠償額を定めたが、抗告人らの即時抗告の申立による当審の審理期間中に右の始期を経過し、しかも、原決定の執行は法律上停止されているので、原決定所定の賠償額中右同日から本決定の抗告人らに対する送達の日までの金額は、同条後段による損害賠償額を定めたものとして容認されるべきであつて、本件記録によれば、右損害賠償額は相当である。

よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大和勇美 裁判官 松永剛 裁判官木下重康は当裁判所判事の職務代行を解かれたので、署名捺印することができない。)

抗告理由書<省略>

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